【トリチウム汚染水】濃縮すれば海洋放出は避けられる

トリチウム汚染水の海洋放出を避ける方法があります。濃縮分離案です。

汚染水からトリチウムガスを分離し取り出し、チタンと化合固化させてボンベに貯蔵します。

以下、現実的な技術解説、計画、メリットの解説をします。


--------------目次--------------

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1.【技術】すでに結果を出している実証プラント

トリチウムを汚染水から取り出す実証実験を行うプラントはすでに目標レベルの性能を達成しています(1),(2)

このプラントは、経産省の廃炉・汚染水対策事務局が2014~2015年に公募したトリチウム分離検証試験事業に応募したロシアのRosRAO社製のプラントです。

プラントは、タンクが貯留している約130万㌧の汚染水からトリチウムをガスとして分離し、ボンベ内に吸着固化します。それにより、タンクが貯留していた汚染水の濃度を100万Bq/L から1,500Bq/L に下げることができます。計算上、約10年半で現在貯蔵している全ての汚染水を処理することができます。

RosRAO社の実用プラントが建設されれば一日あたり処理量は480㌧となります。いっぽう、一日あたり140㌧の汚染水の流入が今後も続くと仮定すると、140㌧のALPS処理済水が日々発生します。RosRAO社プラントがこれを処理した後に残る処理能力は、一日あたり340㌧です。 すると、130万㌧全てを処理するには130万÷340≒3,824日≒10年半かかることになります。

2.【準備】建設期間・費用・必要スペース、どれも問題なし

[建設開始から6か月で部分的稼働開始、18か月でフル稼働]

RosRAO社によれば、実用プラント(実証実験プラントの10倍の処理能力保有)は建設開始の6か月後には部分的に稼働を始め、18か月後にはフル稼働が可能です(3)。つまり、福島第一原発敷地内のタンクが満杯前に稼働するので海洋放出をせずに済みます。

[建設・運用費用も必要スペースも問題なし](4)

建設費と一年あたり運転費の合計は経産省「原発応援」予算(5)より少ない。

プラントの敷地面積はタンク4基分の敷地面積とほぼ同じ。

3.【現実性】既存プラント技術の組み合わせ、実証試験で目標性能をクリア

RosRAO社プラントで用いられている個々の技術は、すでに世界でトリチウムの濃縮や回収に用いられている技術です。日本でも、高速増殖炉の「ふげん」や「もんじゅ」で稼働していたトリチウム回収システムが類似の技術を用いています(6),(7)

一般に、類似の技術であっても異なる条件下で異なる目的に用いられたときに目標性能を実現するとは限りません(6),(8),(9)。それゆえ実用プラントを建設する前に一回り小さい実証プラントを用い試験を実施して性能を確認します。

福島原発に溜まったトリチウム汚染水の処理プラントの場合、2014年に始まったトリチウム分離検証試験事業がこの実証プラントを用いての性能試験でした。その試験で目標性能を確認できたのが公募参加7社のうちのひとつRosRAO社の実証プラントでした。

RosRAO社プラントの主要部は三つのシステムから構成されています:

4.【陸上保管】「低濃度でも小容量でも陸上保管はダメ」は思い込み

陸上保管については、5、6年ほど前から経産省は否定的になっています(10)(11)。しかしこれは思い込みにすぎません。

危険なのは「高濃度で大容量の保存」です。

大容量だが低濃度の場合:タンクの管理不全などで仮に漏洩事故が生じたとしても、政府方針が「安全」と主張する1,500Bq/Lレベルのトリチウム含有水ですから、容易に対応できます。

小容量だが高濃度の場合:RosRAO社プラントが濃縮したトリチウムガスは、ボンベ内のチタンに化合させて固化します。その保管は、使用済み核燃料の乾式キャスク(空気の自然対流によって冷却する金属製の頑丈な容器)内での保管に比べて、格段に容易で安全です。使用済み核燃料の方が桁違いに大きなエネルギーと濃度と長寿命の放射能を有しているからです。 乾式キャスクを日常的に管理している原子力発電所の現場にとっては、トリチウムを貯蔵したボンベの管理はさほど困難ではありません。

5.【お願い】水産業を守るため処理プラント建設の決断を政府に要求しましょう

「風評」被害は必ず起こります。政府(経産省)も「風評被害を生じうることは想定すべきである」と報告していて(20)、事実上これを認めています。必ず起こる「風評」被害を避けるには、海洋放出を避けるほかありません。

国・東電は「(海洋放出ならば)産品影響はほぼ水産物を扱う業者に留まる 」(21)として海洋放出を選びました。しかしこれは、加害者である東電が汚染水処理において負うべき経済負担と、被害者である水産業が海洋放出によって被る経済的損害とを天秤にかけるという点で、とんでもない間違いです。さらに、日本の水産業が今後長い年月にわたって受ける被害額は、間違いなく東電の経済負担の額よりも大きいと言える点でも、大きな間違いです。つまり二重に間違っています。(22)

有史以来続いてきた日本の海での生業(なりわい)を後世に残すためならば、処理プラント建設(あるいは前回報告した大型タンク増設)に惜しみなく税金を投入するのが理性的で正しい政策と考えます。

6. [ニュース]本報告後、東電「トリチウムを分離する技術」の公募を開始

ナインシグマ社ホームページ https://ninesights.ninesigma.com/servlet/hype/IMT?documentId=666c41b118b9f52b19b01661e213f87b&userAction=Browse&templateName=

そこでは「ALPS処理水等に関し、トリチウムを実用レベルで分離可能な技術が確認できた場合は、積極的に検証を進め、取り入れていく」ことを東電が約束しています。

この約束は、これまで政府・東電が繰り返し述べていた見解「今まで研究開発されてきた技術は当然のことながらそのままの形では適用できない。・・・なお、新たな技術の研究が進められていることから、引き続き、技術動向は注視すべきである。」(9)とくらべると「取り入れていく」選択肢を挙げている点で具体的・積極的です。これを有力な手がかりにして、国・東電に予算措置を伴った濃縮分離の実用プラントの開発を迫っていきましょう。

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[この報告書の内容をSNSで、口コミで。拡散してください]#濃縮分離案 #海洋放出反対 #トリチウム

主張は正しいだけでは、その内容を実現できません。海洋放出を止めることができません。声が大きい方が勝つのが冷厳な事実です。 是非、SNSなどを活用して「海洋放出を避ける方法がある」ことを拡散し「理性的で正しい声」を大きくしてください。外国語が堪能な方は、ぜひ本報告の内容を各国語に訳して世界にも拡散してください。

私も本報告の内容を吟味してより正確な内容にする努力を続けますので、よろしくお願いします。

2021年5月4日 栗原春樹(JCFU事務局)記 / 同6月10日改稿 

Q&A

Q1:工事がスケジュールより遅れることはありませんか?

A1:このRosRAO社の計画は5年前に提案されたあとは棚晒しにされていました。 長い年月の後に計画を再開するとなると、提案のスケジュールより工事の進捗が遅れるかもしれません。しかし、その場合はタンクを増設して満杯になる時期を遅らせることで充分対応が可能です。この増設に必要なスペースとしては、「東電が利用計画を決めていない」と報道されているタンク用(12)などが考えられます。


トリチウム含有水の量も濃度も桁が相当異なるのであるから、今まで研究開発されてきた技術は当然のことながらそのままの形では適用できない。このため、福島第一原発で実用化するためには更なる研究開発が必要となるが、現時点においても、福島第一原発にただちに実用化できる段階にある技術は確認されていないことから、トリチウムの分離は行わないことを前提に議論を行うこととした。なお、新たな技術の研究が進められていることから、引き続き、技術動向は注視すべきである。

Q2:プラントの耐震性はだいじょうぶですか?

A2:RosRAO社はマグニチュード9の地震を想定した耐震設計をしているようです。(13)


Q3:外国の会社に建設を委託すると、稼働後の保守・安全管理などを日本側が自主的にできない、そんな心配はありませんか?

A3:この懸念は事故数年後に設置されたアルバ社あるいはキュリオン社製の他核種除去装置(略称ALPS)の稼働がトラブル続きであった経験から生じるのかもしれません。 しかしALPSと今回プラントが置かれている条件が大きく異なるので、この懸念はさほど大きくないと思います。まず、今回プラントが用いる技術は日本も実用化しているプラント技術であり、核事故という稀な事象に用いられるALPSとは置かれている条件が違います。また半減期が比較的短く放射エネルギーも小さいトリチウムが処理対象であることも、大きく異なる条件です。


Q4:「無害な濃度」で放流する政府の案じゃダメなの?

A4:この質問は、せんじ詰めれば「1,500Bq/Lの汚染水放流は科学的に見て安全か?」という問いになります。 答えは「安全とも危険とも、科学的には今は断言できていない」です。

その根拠としては答えが国によって違うことです。例えば飲料水の基準値を7,000Bq/Lと定めるカナダとWHOが言う10,000Bq/Lを採用する国々は1,500Bq/Lの汚染水放流を「安全」と判断するかもしれません。しかし基準値740Bq/Lの米国と100Bq/LのEU諸国は「危険」と判断すると考えられます。 国や組織により基準値が異なっていることは、トリチウムの危険性を判断するには科学的・疫学的データが足りないことを示唆しています。 以上の理由から「トリチウム汚染水による海産物汚染に対する心配を(科学的根拠のない)風評に対する心配」と一方的に断じることはできないと考えます。


Q5:自然界に存在するトリチウムより桁違いに少ない放流量だから「安全」なのでは?

A5:放流総量の約1,000兆Bqは、宇宙線が1年に生み出すトリチウムの数百分の1であり、現在の環境中存在量(その約9割が半世紀前におこなわれた大気中核実験由来)の1万分の1以下に過ぎません。しかし放流されたトリチウム水が速やかに拡散して環境海水中のトリチウム濃度(約0.1Bq/L)まで薄まるかは疑わしいです。 コンピュータを用いた最新の数理計算モデルによってこの拡散・稀釈を「証明」したとしても、このモデル自体が「海流や海底地形に関しての現時点での知見」に基づいて作られているという限界があります。 いっぽうで、深海の水の入れ替わりは遅いという報告があります(14)。また最近は、プランクトン、海藻、魚介へのトリチウム濃縮へ目が向けられ、これを確認した研究報告がいくつかあります(15),(16),(17),(18)。 したがって「安全かどうか、科学的には今は断言できない」と考えられます。

さらに言うなら「安全かどうか」に関しての科学的議論はこれからも必要ではありますが、確実に漁業者の生活を破壊する「風評」被害を防ぐための議論を優先すべきです。


Q6:外国の核施設はもっと大量のトリチウム水を海洋放出してきた。だから問題ないのでは?

A6:ラ・アーグ再処理施設(仏)では今回政府方針の約百倍、セラフィールド再処理施設(英)では数倍の海洋放出が行われてきました。 c 両施設の周辺では海洋放出が原因と疑われる疾病増加の報告もありますが、それぞれの政府は海洋放出が原因ではないと断言しています。核兵器を安全保障の要としている両国政府ですから、当然の見解とも言えます。しかしセラフィールドの対岸に位置し、核開発への忖度のないアイルランド政府は、セラフィールドの稼働に関して欧州司法裁判所に提訴したことがあります。 このような事情を考慮すると、両再処理施設からの海洋放出が「安全」かどうか、科学的には今は断言できていないと言えます。


Q7:「濃縮分離しても濃縮前と同量の処理水が発生するから大量の水を保管し続けることになる。」これって本当ですか?

A7:トリチウム水(THO)が1,000億分の1(重量比)ほど混ざった100万㌧の水(H2O)からトリチウム水を抜き出した後に残るのは、999,999.999999㌧の水つまり実質的には抽出前と同じ重さ100万㌧の水が残る。これは当たり前のことで、トリチウム分離検証試験事業を始める際にも分かっていたはずです。それなのに、事業を主導してきた当の経産省が、事業の結果が出た直後から問題視し始めるとはおかしなことです。なぜなのでしょうか?

この指摘のとおり、RosRAO社のプラントでも、濃縮トリチウムガスを固化したボンベとは別に濃縮前と同容量の約130万㌧処理水が残ります。しかし。その濃度は政府が海洋放出しても「安全」と主張する1,500Bq/Lですから、タンクの管理不全などで仮に漏洩事故が生じたとしても、容易に対応できます。


Q8:タンクにいま溜まっている約130万㌧とは別に、一日あたり約140㌧のトリチウム汚染水が増えています。これはどう処理するのですか?

A8:毎日発生する処理水をRosRAO社プラントで処理すると、同容積の処理済み水が発生します。その濃度は政府の方針にある海洋放出と同じ1,500Bq/Lですが、貯留するタンクの余裕がないので放流することになるでしょう。

しかし、一年間に放流するその量は140×365≒5万㌧ですから、政府方針の放流総量である約10億㌧(19)の10,000分の1以下で、環境に与える影響もそれだけ小さくなります。

[出典]

(1) 廃炉・汚染水対策事業事務局2014-15年度実施 トリチウム分離技術検証試験事業:

https://dccc-program.jp/project/project-6_1-1

(2)廃炉・汚染水対策事業事務局2016年4月19日トリチウム分離技術検証試験事業総括及び評価 下の表は、その2-3頁に記載のRosRAO社試作プラントに対する評価の抜粋です。 :

(実施状況)

  • 実規模レベルの設備を構築し、得られた実験データ等から、実プラントにおける分離性能の検証やコスト見積もり等が行われた。

(評価)

  • まだ試験プラントを建設して性能試験を開始した段階であり、現時点ではデータの取得が十分ではない。更なるデータ取得を行い、分離性能等の根拠データを明確にする必要がある。
  • 濃縮側廃棄物の発生量も含め、マスバランスは精査する必要がある。
  • 実プラントに向けては、性能試験に加え、長期運転やプロセスの安定性の試験も行う必要がある。
  • コスト見積もりは過小評価と考えられる。
  • 日本の建築基準等への適合性については精査が必要である。

栗原の注;上記の評価には、実用化に向けての大きな困難は記載されていません。解決すべき課題として指摘されているのは「長期運転やプロセスの安定性の試験も行う必要」など、一年ほどの短期事業では必ず生じる課題です。この点、性能の未達などより深刻な課題を指摘された他社の類似実証プラントとは対照的です。:

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/tritium_tusk/pdf/160419_06.pdf

(3)プロモーション・ビデオ ”Tritium separation technology for LRW treatment (JAP)” その開始から18’20”-18’43”のナレーション:

https://www.youtube.com/watch?v=3FpSKIZsBfs

(4) 平成28年(2016年)6月 トリチウム水タスクフォース報告書 その54-55頁:

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/tritium_tusk/pdf/160603_01.pdf

(5) 令和3年度経済産業省予算のPR資料一覧:エネルギー対策特別会計:

https://www.meti.go.jp/main/yosan/yosan_fy2021/pr/energy.html

下表は、このサイトにある電源立地対策と電源利用対策にあてられている予算データから栗原が作成した表です。



(6) 2020年2月10日 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 報告書 18頁の表3および図15

https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200210002/20200210002-2.pdf

(7) 岩井保則、久保仁志、大嶋優輔「効率回収に向けた疎水性白金触媒の開発」、Isotope News 2015年8月号 No.736 その15-16頁:

http://www.jrias.or.jp/books/pdf/201508_TENBO_IWAI.pdf

(8) 上記(7)と同じ出典の14頁右欄19-32行の記述「近年,福島第一 原子力発電所の事故により発生した汚染水の処理が注目されている。その中で現在使用されている多核種除去設備 (ALPS) やストロンチウムのみを取り除くモバイル・ストロンチウム除去装置のいずれでも除去できない放射性物質としてトリチウムが指摘されている。汚染水中のトリチウム水処理は比較的低濃度のトリチウムを含む大量の水の処理が求められているが,核融合に求められる高トリチウム濃度·低水量の処理とは真逆の要求となる。原理的には水中からのトリチウムの回収は同位体差を利用したプロセスで可能であるが,大きな付帯設備を要しないコンパクトな設備規模で大量の汚染水の処理要求に適合する技術が見当たらないのが現状である 。」



(9) 上記(6)と同じ出典の18頁上段の記述「工学的技術においては、桁が1つでも違えば、別の技術課題として扱われる。トリチウム含有水の量も濃度も桁が相当異なるのであるから、今まで研究開発されてきた技術は当然のことながらそのままの形では適用できない。このため、福島第一原発で実用化するためには更なる研究開発が必要となるが、現時点においても、福島第一原発にただちに実用化できる段階にある技術は確認されていないことから、トリチウムの分離は行わないことを前提に議論を行うこととした。なお、新たな技術の研究が進められていることから、引き続き、技術動向は注視すべきである。



(10) 上記(6)と同じ出典の17-18頁の記述「トリチウムの濃度が高くなった処理水と併せて、同位体分離作業前と同量の処理水の保管を継続しなければならないこと、すなわち、大量の処理水を保管し続けることになることに留意が必要である」

栗原の注:上記文中で自分が下線を引いた部分はRosRAO社プラントにも該当します。しかし、同位体分離作業後の処理水は1500Bq/Lレベルの低濃度トリチウム含有水ですから、その保管継続は分離作業前よりもはるかに容易です。



(11) 上記(4)と同じ出典の 20頁の表(1)選択肢の整理にある記述「(濃縮貯蔵も)最終形にはならず、あくまで一時的な措置」:

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/tritium_tusk/pdf/160603_01.pdf

(12) Yahoo! Japan ニュース、2020年12月23日、木野龍逸「東電が説明しないタンクの敷地が約2年分 満杯は2024年秋頃か」:

https://news.yahoo.co.jp/byline/kinoryuichi/20201223-00213894/

(13) 上記(3)と同じプロモーション・ビデオの開始から19‘04”付近のナレーション


(14) Takeshi Umezu, Yoko Minamisako, and Kenji Tabata, “Dissimilarity of 60Co/Co,137Cs/Cs and 90Sr/Sr Ratios in Beryx splendens from the Pacific and Atlantic Ocean”, Bulletin of the Japanese Society of Scientific Fischeries 52(111)9,8 5-19(9139 86)

この論文によれば、数十年前に行われた核実験由来の放射性物質が海面下数百メートルにすむ魚に蓄積されていること、つまり放射性物質が完全には拡散稀釈されていないことが報告されています。:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/suisan1932/52/11/52_11_1985/_pdf/-char/en

(15) Jaeschke, B.C., Bradshaw C. (2013) Bioaccumulation of tritiated water in phytoplankton and trophic transfer of organically bound tritium to the blue mussel, lYfytilus edulis, JEnviron. Radioactivity, 115:28-33


(16) G J Hunt, T A Bailey, S B Jenkinson and K S Leonard “Enhancement of tritium concentrations on uptake by marine biota: experience from UK coastal waters” J. Radiol. Prot. 30 (2010) 73–83


(17) Frédérique Eyrolle et al. “Evidence for tritium persistence as organically bound forms in river sediments since the past nuclear weapon tests” Scientific Reports | (2019) 9:11487


(18) Jennifer Olfert (Project Lead) & Lars Brinkmann (Technical Lead)” Modeling the transfer of organically bound tritium ( OBT ) through marine food chain”


(19) タンク貯留トリチウム水の平均濃度を73万Bq/Lと仮定して、これを政府方針の1,500Bq/Lに薄めた場合の総放流量を次のように算出しました:

(730,000Bq/L) ÷ (1,500Bq/L) ≒ 490 、135万㌧×490 ≒ 6.6億㌧

更に、これに毎年発生するALPS処理済み水の5万㌧の30年分(政府の方針では放流は30~40年かけて行なう)150万㌧×487 ≒ 7.3億㌧を加えると、総量は約14億㌧となります。 しかし毎年5万㌧のALPS処理済み水が30~40年の長期にわたって発生するとは限らないので(逆に増える可能性もありますが)、控えめに10億㌧と見積もりました。 ここで用いた「平均濃度を73万Bq/L」は次の資料の7頁記載の表からもらいました。 https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/pdf/2020/20200701a1.pdf

東京電力が「処理水ポータルサイト」で公表している「タンク群毎の放射能濃度(2020年12月31日)によると、トリチウム濃度の確定が2020年年末でも未だのタンクもあります。したがってその半年前に作られた上記「7頁記載の表」にある73万Bq/Lは推定値と考えられます。 https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/images/tankarea.pdf



(20) 2020年1月31日 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 報告書 https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/osensuitaisaku/committtee/takakusyu/pdf/018_00_01.pdf

その34頁下段:「どのような形で処分を行っても、全ての人々の不安が払しょくされていない状況下では、ALPS 処理水を処分した場合、程度や発生時期の差はあるものの、風評被害を生じうることは想定すべきである。」

これは風評被害が避けられないことを事実上認めた文章と言えます。

また同報告書29頁では「風評被害の原因は、情報過多社会であり科学的な正確性の判断が難しいこと」であり、この「情報不足」の状況の下で「マスメディア、SNSなどによる情報伝搬の偏り」が様々な不安を呼んで買い控えなどの経済被害をもたらす、と「風評」被害の仕組みを解説しています(31頁 図9.風評被害発生のメカニズム)。

はたして「科学的には安全」と言い切れるのか?この疑問はさておき、マスメディアによる「偏りのない情報伝搬」とは、どのような報道なのでしょうか。 2020年3月11日放映のNHKニュースウオッチ9は「科学的いろは」を間違えた方法を用いて「トリチウム汚染水の安全性」を印象付けました。 http://jcfu-report.sakura.ne.jp/report-1.html「偏りのない情報伝搬」は、そのような報道であってはならないと考えます。

(21) 上記(20)と同じ報告書の24頁の表5.各処分方法の社会的影響の特徴

(22) 廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議の報告https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps_policy.pdf ここには、「復興と廃炉に向けての基本的考え方」として「ICRP が勧告する ALARAの原則(As Low As Reasonably Achievable)、つまり、すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきであるという線量低減の原則」が掲げられています。

トリチウム汚染水処理で生じる損害負担にALARAの原則を適用することは理論的に間違いです。なぜなら、この原則は例えば原発事業者が供給する電力の消費者のようにもっぱら「受益者」どうしの間での損害負担に適用できる原則だからです。